いかにも「文通」が好きそうな、自称日本の俺の親友から分厚い封筒が届いた。
届いた、というより、エリーゼから手渡された。何で、直接俺じゃなく…?
たどたどしいフランス語で書かれた宛名は、俺のアパルトマンの住所ではなく事務所のものだった。
『千秋。あなたに日本から正式な仕事の依頼よ』
『は…?』
話の意図が掴めず、俺は軽く目を見開いた。
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│ 親愛なる、俺の親友! 元気か? この間の訪問以来だな。
│
│ 今回は、親友としてじゃなくR☆Sの事務としての手紙だぜ。
│ Sオケから始まって、R☆Sの活動も佐久間さんや桃が丘の理事長のおかげで、
│ 結構順調に経営もいってんだ。
│ コンサートも、開いたりして人気は上々だ! 今や世間はクラシックブームだしな。
│ それで、今年から夏に大々的なクラシック・コンサートを開催しようという話が出てて。
│ もちろん主催はR☆Sになる訳なんだけど、桃が丘も寄付してくれることになってさ。
│ これから毎年やっていくのを前提に話を進めてるからさ、
│ 初回の今年はちょっと贅沢にいこうと思って。
│
│ そこで、千秋! ここでお前に頼みがある!
│ 今年はR☆Sの留学組も合わせて、客演のプログラムを組みたいんだ。
│ もちろん、今こっちでやってる日本組は松田さんの指揮でやるけど。
│ 久々に鬼指揮者・千秋の指揮でも演りたいな〜なんて思ってるんだよ、俺達。
│ 初のメンバーもいるけど、今回は真澄ちゃんや萌、薫も呼ぼうと思ってるから。
│ 前に演奏した曲で構わない。きっと今から依頼すれば、時間は取れないだろうから…。
│ こっちには一週間くらい滞在してもらえればいいから……。
│ シュトレーゼマンとか、お祭り好きそうだから
│ 事務所の方に詳しい内容を送っておいたぜ!
│ じゃ、スケジュール調整とかよろしく!! 俺達も楽しみにしてるよ。
│ ……もちろん、松田さんも楽しそうだけどな。
│ これを送るのと同時に、清良やくろきんにも同じよーなものを送っておいたから。
│ よく分かんなかったら、皆に聞いてくれ!
│
│ それじゃ、親友。良い返事を期待してるぜ!
│
│
│ P.S ああ、それから………
│
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「…は?」
間違いない峰の筆跡を見て、俺はもう一度目を見開いた。
日本で客演…? この、俺が? R☆Sでもう一度……? しかも、指揮者・千秋真一としての正式依頼だと?
確かめるようにエリーゼに目を移すと、『ふん』と大して興味もなさそうに肩をすくめた。
『シュトレーゼマンがこの話、やたらと気に入っちゃってね。“ミーナ”も関わってるし、何としても千秋を送りつけるつもりでいるから』
『…じゃあ、俺、日本で客演できるのか?』
シュトレーゼマンの付き添いは? 代振りは? 俺の、公演スケジュールは?
視線の意図が分かったのか、『もちろん』とエリーゼは付け足した。
『夏まではびっしり稼いでもらうわよ。帰ってきてからもね……ただ、たまには慣れ親しんだ所で実力を試すのもチアキにとっては良い気分転換になるだろうってシュトレーゼマンが言うから。…ま、本気かどうかは怪しいでしょうけどね』
『………』
もう一度、峰の手紙を読み返す。
日本で、演奏できる。あの、俺の原点となったR☆Sで。それも、清良や黒木くん達も呼んで。
夏…夏休みなら、のだめも連れて行けるか?
思わず一人呟いていた「のだめ」、という単語に反応したのだろう、エリーゼは呆れた口調で『ちょっとチアキ』と口を挟んだ。
『あんた、ちゃんと手紙読みなさいよ。……最後の一行』
最後の一行?
少し、浮かれているのかもしれない。やや熱を持った頬を隠すように、手紙の下へと視線を移した。
│
│ P.S ああ、それから。
│ 今回はのだめにも正式に出演依頼、するからな。
│ まだデビューしてないから一緒に頼みこんじゃったけど。
│ その辺、のだめにも伝えといてくんねーかな?
│
│ お前の親友 峰より
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……は?
今度こそ、目が点になった。
―――…一体、何を考えてんだ? 峰。