「これ……」
チューニングのAの音が響く中、隣でぽつりとのだめが呟く。
ん? と隣を見下ろすと、照れくさそうにのだめははにかんだ。
「これ、ウエディングドレスみたいですね」
のだめは純白のカクテルドレスに身を包んでいた。
ステージからの華やかなライトの残像が、シルクの光沢を柔らかなものにしている。
Aラインのギャザーを入れたフリルスカートが、少し動く度にひらひらと揺れていて。
その隙間から、赤いスワロフスキービーズのアンクレットがキラキラと反射しているのが眩しい。
そして、その胸元と背中まで伸びた淡い茶色の髪を後ろで纏めている髪飾りについた、
―――白い生花の薔薇。
………お前は、花言葉なんて知りもしないんだろうなぁ。と心の中で呟いてみる。
けれど、本当に今日ののだめはまるで。
「………そうだな」
「―――え?」
そう切り返されるとは思いもしなかったのだろう。
のだめの瞳がきょとん、と見開かれる。それに苦笑しながら、ぽんぽんと頭を撫でた。
柔らかくて滑らかな髪質が心地良い。
その拍子に、ゆらゆらと揺れる白い薔薇が視界に入った。
薔薇と共に付いている白く細いリボンも、のだめの無垢さを表している様で。
あぁ、まるで―――――最後の楽園に咲いた薔薇。
何者にも染まらない、全てを溶かす色。限りなく澄んで、”始まり”を今かと望む色。
……本当に。枯らす事がなくて良かったと。
チューニングが終わり、静寂が戻ったホールに緊張感が戻ってくる。
久しぶりのその感覚に、怖れとか焦りとかよりも楽しみや喜びが湧き上がってくる。
あれ程までに弱気になっていた自分は一体何処へ行ったのかと、思わず苦笑が漏れた。
どうぞ、と周りにいたスタッフからかけられた声に軽く頷くと、のだめに振り返った。
指の背でまだ僅かに赤い頬を撫でる。
「さ、行くぞ。俺達の”世界”を創りに」
「―――ハイ」
今この瞬間も、俺達の”世界”を、”音楽”を待っている人達の下へ。
そして。
俺が、俺の”誓い”を、確かなものにするために。